2009年09月03日

tabi0278 澁澤龍彦「胡桃の中の世界」

ミクロコスモス・スコア
実際、『胡桃の中の世界』はリヴレスクな博物誌のようなもので、私はここで、幾何学的なイメージや石や動物や各種のオブジェや、あるいはシンメトリーや螺旋やユートピアや庭園や小宇宙などといった、気に入りのテーマを飽きもせずに語っている。(中略)ひたすら原型を求め、イメージの結晶を求めていた私だったが、いまや、それをロマネスクにふくらませることに楽しみを味わっているというわけだ。P283-4
澁澤龍彦「胡桃の中の世界」(河出文庫 2007)


本書は「人類の〈結晶志向〉の夢の系譜」を一冊に封じこめた奇想の博物誌と評されている。冒頭には「石の夢」というエッセイが収められており、プリニウスの「博物誌」からはじまり、ガストン・バシュラール「大地と休息の夢想」、ロジェ・カイヨワ『石の書』、さらには『和漢三才図会』まで渉猟し、興味深いエピソードを掘り起こしていく。

その中でも印象に残るのがアタナシウス・キルヒャーの『地底世界』である。

6059287.jpg
地球の断面図 A・キルヒャー『地底世界』1664年

この図について澁澤氏は、以下のように説明している。

一六六四年にアムステルダムで刊行された『地底世界』、それまでの多くの資料を集大成しているが、それだけではなくて、広範囲な一つの宇宙開闢説となっているところに第一の特徴があった。キルヒャー独特の筆触で描かれた地球の断面図が挿入されていて、それを眺めると、地殻の内部で燃えている火は、細い運河のような数多の裂け目を通り、火山となって地表に噴出している。鉱物も金属も、この燃える地殻の内部から自然に生じるということが示されているのである。地球は一個の有機体であり、自然は人間のように考えたり行動したりする。澁澤龍彦「石の夢」


イエズス会士であるキルヒャーは、すべての現象の背後に神の摂理を見いだしている。自然界において奇蹟を起こすのは常に神の力であり、天に新しい星が生まれるのも、石の中に形が生じるのも全ては「神の力」だという。現在の自然科学とは相反するが、このような神秘主義的解釈は中々面白い。

並行してナシーム・ニコラス・タレブ「ブラックスワン」を読んでいる。そうすると「プラトン的知性」という言葉に敏感にならざるを得ない。2つの書籍で、プラスマイナスを往還することになるからだ。

タレブ氏はマイナスの語尾をもって「プラトン的知性」を語っているが、澁澤氏は神秘的な「プラトン的知性」を面白がっている。双方の知性を併せ持ちながら「黒い白鳥」について語っていくことが必要かもしれない。

■参考リンク
[澁澤龍彦]「異端の肖像」「胡桃の中の世界」「エピクロスの肋骨」



■tabi後記
航海には地図がいる。さて、そもそも「その地図」をつくった人は、どうしたのだろうか。おそらく、大まかな予測を片手にもちながら航海をはじめたのだろう。そして、もう一方の手で地図をつくっていった。
posted by アントレ at 23:39| Comment(0) | tabi☆☆☆ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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