2009年11月20日

tabi0320 小島寛之「使える!経済学の考え方」

数学を信じられるか、ではなく、数学に信じられるか
ぼくは次第に、彼らとの議論を時間の無駄だと感じるようになりました。彼らの希求する「自由」や「平等」というもの自体は、とてもうるわしく、手放しで「入信」してしまいたい気持ちにはなるのですが、頭の別の側では、何の論理的な支柱もない議論への警報が鳴り響きました。論理なく無批判に信じることを自分に許すと、危険で暴力的なでたらめな思想によってマインドコントロールされてしまうことになりかねない、高校生ながらそういう強い警戒心が芽生えたのです。

それ以来、ぼくは「自由」、「平等」、「正義」といったものを議論することを自分に封印してきました。封印していることさえも忘れるほど長い年月にわたって遮断していました。ところが、プロの経済学者として、ピグーやハルサー二やセンやギルボアやロールズの議論に出会って突然、心に貼られた「魔よけのお礼」がはがれることになったのです。とりわけ、ハルサーニやギルボアのように、完全に数理的な研究者だとみなしていたい学者が、その背後で「平等」の問題を解こうという気概を持っていたことは、新鮮な驚きでした。P232-233
小島寛之「使える!経済学の考え方」(筑摩書房 2009)


・なぜ経済学を学ぶ者が、数学を学ばなくてはならないのか?

その問いに対する真摯な応答が示されている。そして私は、この真摯なる応答によって経済学を学ぶことを辞めようと(とりあえず)決めた。何も私がやる必要はない、という積極的な意味においてである。

経済学は、GDPを「幸福」そのものと捉えていると思われている(思われがちである)。けれど、私が知る経済学者たちは(少なくとも書物においては)、そのような安直姓をもちあわせてはいない。

彼らは、幸福=お金ではないことを当然視したうえで、この2項においてオーバーラップする「部分」もあるので、一旦は代理品としておこうというコンセンサスを持っているのである。(とはいえ、そのコンセンサスが一旦の留保であることを絶えず参照することは、多大な認知的負荷がかかるので、留保は忘却の彼方にいってしまったりもする・・)

このような前提を持った上で、経済学は幸福を効用で測ることにしたのである。効用関数とは「特定の個人の内面」に依拠するものであって、すべての人間に共通のものだとは仮定されていない。効用という概念が発生したのは、19世紀後半にメンガー,ワルラス,ジェボンズらによって「モノの価値とは何か」という問いが発せられたからであろう。

それまで、この問いに対しては、労働価値説や生産費説などがコンセンサスとなっていた。彼らはそのような環境下で、限界効用(及び、限界効用逓減の法則)を見出したのである。

限界効用とはもう一歩外に踏み出すと仮に想定したときに消費が与えるはずの効用のことである。もちろん、限界費用逓減の法則が、効用の個人主義性に関しては保留とされているが、それを差引いたとしても発展モデルを提供したという意味で「歴史」がはじまった。

いささか回り道となってしまったが、私が経済学を学ぶことを辞めようと思ったのは、著者が「なぜ、経済学では数学を用いなければならないのか?」という問いに対して書かれた3つの理由に全面的に同意したからである。そして、納得感をもってしまったからこそ、辞めようと思った。

・数学は、非常語(情緒性の低い)を用いるので、人の情動のようなものを適度に遮断し、冷静な思考を促す。

・数学は、少なくとも理想状態では成立するような例を与えることができる。

・数学は、論証されれば、形式論理上では誤りがないことが確認される。

私には「形式論理上で」という箇所に違和感がある。ゲーデル,ヴィトゲンシュタイン,クリプキなどの仕事を参照するまでもなく、私は数学というものへ信仰を持ち合わせることはできていない。この部分は、岡潔・小林秀雄「人間の建設」,野崎昭弘「不完全性定理」,十川 治江/松岡 正剛 「科学的愉快をめぐって」にて多少の体験的告白をしているので参照頂きたい。

■参考リンク
数理は有利 - 書評 - 使える!経済学の考え方
小飼弾さんの書評に恐れ入るの巻
恐怖のリフレー・ザ・グレートの巻



■tabi後記
久々に安斎ゼミに参加してきた。発想が湧き上がる。6章/最終章が必見である。貨幣保有から得られる効用は、モノを買うことに対して、買うタイミング、何を買うといったことを留保することができるという効能、それが流動性の効用である、と解釈した。
posted by アントレ at 17:01| Comment(0) | tabi☆☆☆☆ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。