2010年01月01日

tabi0327 川島武宜「日本人の法意識」

所有と共有の合間に在する、資本を飼い慣らす作法
もちろん、西洋の諸社会においても、道徳や法が社会の現実の圧力に抗しきれず、これに対応して調整をおこない妥協する、という現象は、実際には不可避である。それにもかかわらず、意識や、思想の上では、当為と存在との二元的対立が絶対視され、したがって現実への妥協ないし調整は、日本社会におけるように「なしくずし」にではなく正当性の信念をつくりだすための種々の操作をともなって、抵抗ののちに、断続的な形態をとってあらわれるのを常としているように思われるのである。P45
川島武宜「日本人の法意識」(岩波書店 1967)


本書において「近代化」という言葉は、支配=服従的な社会関係(或いは集団)の解体と「自由平等」な個人のあいだの社会関係(或いは集団)の成長を意味している。別の表現をもちいれば、特定個人的且つ情動的な制裁の退化と非特定個人的且つ理性的なサンクション(特に、法的サンクション)の成長ということである。

川島氏は、「文字の次元における法」の近代性と、「行動の次元(法の機能)における法」の前近代性とのずれを認識した上で、どのような制度設計が可能となっていくかを提案していく。

日本の伝来的な権利意識のもっとも基本的な特色は、その内容の不確実性・不定量性ということ、および、それと関連しているところの・権利をめぐる規範と事実の分裂・対立が稀薄であるということ、であった。いま、以上に述べたような所有権の意識を、そのような権利意識の基本的特質に照準点をおいて再構成するなら、次のように言うことができる。すなわち、右のような所有権の意識においては、その時その時の事実の状態が権利の規範的内容に影響を及ぼすのであり、したがって、そこでは事実と規範とは明確に分裂し対立しておらず、事実と規範とは、はじめから妥協することが予定されており、言わば「なしくずし」に連続しているのである。P85
川島武宜「日本人の法意識」(岩波書店 1967)


川島氏は「入会(いりあい)」という概念の重要性についてが指摘している。
入会とは地域住民が一定の範囲の森林や原野や漁場について、そこから発生する資源(木材、薪、魚など)を共有することである。
川島氏は「入会権」の研究をつうじて、それが日本人の共同体構築技術の根幹にかかわるものであることを解明した。この箇所に、ソーシャルキャピタル/パブリックドメインといった概念を連関させてくる人もいるのだろう。

所有物についてどのような行為もなし得るということは、現代においては、所有者である以上当然であるように見える。しかし、このことは近代法(資本制社会に固有の法)の歴史的特質にすぎない。近代以前の社会では、土地、山林、原野、河川等については、それぞれの『物』の性質・効用に応じて、またそれぞれの主体に応じて、限定された異る内容の権利が成立したのであり、(・・・)そうして、それらの権利は言わば並列的に、ひろい意味での『所有』と呼ばれていた(たとえば、地代徴収権者は上級所有権 Obereigentum 或いは直接所有権 dominium directum をもち、地代を払う耕作権者は下級所有権 Untereigentum 或いは利用的所有権 dominium utile をもつというふうに)。だから、一つの物の上に重畳して、いくつもの『所有権』が成立し得たのである。P65
川島武宜「日本人の法意識」(岩波書店 1967)


このようなあいまいな所有権意識というのは、私的所有権を「所有の原基的形態」とする社会においては、原理的に排除されている。私たちの社会はすべてのものが「個人の所有物」で埋め尽くされている。個人が私的に所有することができないし、するべきでもないものをどのようにして他者と共有するか、その「やりくり」の技術を錬磨してゆくことを通じて、ひとは市民となっていくと考えられている。

■参考リンク
第二百六十七夜【0267】2001年4月10日
仕事納めはラジオ
tabi0010 青木人志「「大岡裁き」の法意識 西洋法と日本人」
313旅 『日本人の法意識』 川島武宜
日本人の法意識について〜21世紀の日本法は如何にあるべきか〜



■tabi後記
入会に付随する「技術」に前近代的を覚えてしまうのは、私たちがネットワーク技術に包囲されているからだろう。単なる「入会(いりあい)」の提唱ではなく、「入会2.0」を実装することが急務となっているのだろう。自身が出来る範囲で実装に励んでいく。
posted by アントレ at 12:29| Comment(0) | tabi☆☆☆ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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