2010年01月01日

tabi0328 河合隼雄「中空構造日本の深層」

中空は骨抜きにあらず、中空は円環にあらず、中空は・・・
文化比較を行う上で重要なことと考えてきた、父性と母性という観点に焦点をしぼること、多くの対象者に接して統計的な結果を基礎とするのではなく、少数の人にできるだけ深く接して、そこから得た自分自身の感覚を大切にすること、というものであった。そして、自分のいわば主観的体験を大切にしながら、それを補填したり、是正したりするものとして、既にフィリピン文化の研究として出版されている文献を参考にすることにした。それと、文化の底層をなしているもの知るために、フィリピンの神話や民話を読むことにしたのである。P237-8
河合隼雄「中空構造日本の深層」(中央公論新社 1999)


本書のメインは1章にある。ここで行われている河合氏の考察は『古事記』の冒頭に登場する三神タカミムスビ・アメノミナカヌシ・カミムスビのアメノミナカヌシと、イザナギとイザナミが生んだ三貴神アマテラス・ツクヨミ・スサノオのうちのツクヨミとが、神話の中でほとんど無為の神としてしか扱われていないということである。

アメノミナカヌシもツクヨミも中心にいるはずの神である。それが無為の存在になっている。これはいったい何なんだ?という疑問であった。

その疑問が立ち上げる前に、河合氏は科学知と神話知がどのように織りなされてきたかを思索しており、そこで感じたことが中心の欠落である。河合氏がこのような認識をもった上で、取り組んだ仕事が中心を埋める作業ではなく、むしろ徹底して中心を「空」にしてく作業/確認であった。

フロイトは、よく知られているように、自分の精神分析学上の発見を、コペルニクス、ダーウィンのそれと類比している。つまり、彼の考えが世に受け入れられないのは、「人間の自己愛に対する重大な侮辱」を意味しているからであると考える。まず、コペルニクスは、地球が宇宙の中心に位置しているという人間の信仰を破壊し、従って人間がこの世界の中心に存在する主人であるという自負を破壊した。続いてダーウィンは人間が動物以外の何ものでもないことを明らかにすることによって、人間のみが他の生物と異なるという考えを破壊してしまった。これに加えて、フロイトは先に「エス」について彼の意見を紹介したように、人間は実のところ「エス」によって生かされているのであって、自分自身の主人公さえもあり得ないと主張したのである。これら三人の天才の力によって、人間は自分を世界の中心におく世界観をまったく打ち壊されてしまったのである。P15
河合隼雄「中空構造日本の深層」(中央公論新社 1999)


天孫ニニギノミコトとコノハナサクヤヒメの間に生まれた三神は、海幸彦ことホデリノミコト(火照命)、ホスセリノミコト(火須勢理命)、山幸彦ことホオリノミコト(火遠命)であるのだが、兄と弟の海幸・山幸のことはよく知られているのに、真ん中のホスセリの話は神話にはほとんど語られない。

このことから河合は日本神話は中空構造(中ヌキ)をもって成立しているのではないかと推理し、である。河合は『古事記』の叙述にひそむ神話的中空構造としてズバリ抜き出したのだった。

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河合氏は日本の深層が中空構造をもっていることを、必ずしも肯定しているのではない。そこには長所と短所があると言っている。そこでこんなふうに説明した。

[1]中空の空性がエネルギーの充満したものとして存在する、いわば無であって有である状態にあるときは、それは有効であるが、中空が文字どおりの無となるときは、その全体のシステムは極めて弱いものとなってしまう。

[2]日本の中空均衡型モデルでは、相対立するものや矛盾するものを敢えて排除せず、共存しうる可能性をもつのである。

河合氏はこのような推理のうえで、日本が中空構造に気がつかなかったり、そこにむりやり父性原理をもちこもうとすることに警鐘を鳴らした。

■参考リンク
第百四十一夜【0141】2000年10月2日 
199旅 『中空構造日本の深層』 河合隼雄
情報考学 Passion For The Future



■tabi後記
日本の神話では、正・反・合という止揚の過程ではなく、正と反は巧妙な対立と融和を繰り返しつつ、あくまで『合』に達することがない。あくまでも、正と反の変化が続くのである。つまり、西洋的な弁証法の論理においては、直線的な発展のモデルが考えられるのに対して、日本の中空巡回形式においては、正と反との巡回を通じて、中心の空性を体得するような円環的な論理構造になっていると考えられるP46-47
河合隼雄「中空構造日本の深層」(中央公論新社 1999)
posted by アントレ at 14:37| Comment(0) | tabi☆☆☆☆ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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